著者 宮口幸治(著書『ケーキの切れない非行少年たち』など)
実は「どうしても頑張れない人たち」が一定数存在していることは、あまり知られていない。サボっているわけではなく、頑張り方がわからず、苦しんでいる。
大ベストセラー『ケーキの切れない非行少年たち』に続き、困っている人たちを適切な支援につなげるための知識とメソッドを、児童精神科医が説く1冊。
本書は第1章に全体概要(羅針盤のような役割)、第2~8章にそれぞれハイライトがまとめられていますが、私が特に興味を引かれたのは第4章の「やる気を奪う言葉と間違った方法」でした。そこに書かれていたいくつかのフレーズを紹介します。
「勉強しなさい。」
勉強をやる前に、あれこれ言いすぎるのは逆効果。これから勉強しようとしていた時に親から言われたら出鼻をくじかれ、子どもは「そんなこと言われなくても分かっている」と言い返したくなる。もしそこで子どもがそのまま勉強してしまうと、子どもは単に親の指示に従ったことになり、親の方は”やっぱりこの子は私が勉強しなさいと言わないとしない”と誤学習してしまい、ますます悪循環になる。
「そんなことを言っても、言わないとやらない」と思っているそこのあなた。気持ちはよくわかります。頭でわかっていても、ついつい言ってしまうのが親というものですね・・・。
「だから言った通りでしょ。」
大人は子どもに”やったらできる”といった成功体験をもたせようという思いがあるが、その思いが強すぎると、逆に子どもに失敗させたら駄目だと考えてしまい、無茶をさせないようにしてしまう。何かにチャレンジして失敗した場合、一番辛いのはその子ども自身のはず。駄目だった自分を慰めて欲しいという気持ちに対し、”ダメ出し”をされ、とどめを刺され傷つく。すると、「だったら、もうやらないでおこう」とやる気をなくしてしまうことにも繋がってしまう。子どものやる気を奪う大人の余計な一言。
失敗を過度に恐れ、チャレンジしない子ども(大人も?)が増えていると言われますが、その根本にはやはり大人からの声掛けがあったのですね。我々はどこまで寄り添えているでしょうか・・・。
また、これを読んだ時、ビリギャルのさやかさんが受験勉強をしている時に坪田先生から言われたという言葉を思い出しました。
坪田先生:受験に受かったら周りの人はなんて言うと思う?
さやかさん:合格したら喜んでくれて、不合格だったら一緒に悲しんでくれると思う。
坪田先生:周りの人は、受かったら「元々頭が良かったんでしょ」、落ちたら「ほら、言った通りでしょ」って言うよ。
さやかさんは『そんなことないと思うなぁ・・・』と思ったそうなのですが、一年で偏差値を倍近く上げて、慶応義塾大学に受かった時の周りの反応は「さやかちゃんは元々賢かったから受かったんだよ」だったそうです。いかに人の言うことがいい加減かがわかるエピソードです。我々は周りの人の言葉に振り回されすぎていないでしょうか。そんなことで一喜一憂するなんてもったいないもったいない。
さて、本書のタイトルは「どうしても頑張れない人たち」ですが、最後に「頑張る」とはどういうことなのか、それ以前に「できる」「できない」とはどういうことなのかについて書かれていましたので、最後に紹介したいと思います。
いくら頑張ったと思っても、結果が出なければ”できた”ことにならない。自己評価ではなく、結局はどれだけ評価されるかにかかっている。結果を出して評価されて、初めて”できる”という状態になる。例えば仕事をする上で、”興味があって得意だから頑張れる”ものがあったとしても、お金に繋がらず評価されなければ、会社において”できる”ことにはならない。
いくらゲームが得意でも、それで食べていけない、お金にならないと、一日中やっていたとしても頑張ったことにはならない。ところが、eスポーツなどで多額の賞金を稼ぐことができ、成形をたてるくらい稼ぐ段階になると、”頑張っている”という評価に変わる。つまり、頑張っていると評価されるかどうかは、極端な話、「それがお金になるか、ならないか」。
いくら頑張ってもできない子どもは、確実に存在する。そういった子は結果を残せないので、”頑張っていない”と誤解されてしまう。”頑張る人を応援します”ではなく、頑張れないからこそ支援しないといけない。